1. 身ひとつ動作: [行為者] + 動作
ここで「身ひとつ動作」と呼んでいるのは、"[行為者] + 動作"を基本構造とし「〜が…する」という意味を表すものである。現実には、相手に充分な情報を伝えるために、"[行為者] + 動作"の基本構造に加えて副詞句を伴う場合が多いが、それなしでも意味のある事態を伝えることができるという特徴を持つ。
151. 彼はとても速く走る。
→ He runs very fast.
行為者: Heによって自己完結される「走る: run」という動作を表す。副詞句 very fastは runという動作の様態を詳述するための補足情報。
152. 彼女は優しく微笑んだ。
→ She smiled gently.
152も 151と同様、行為者 Sheが身ひとつで行える動作である「微笑む: smile」ことを行なったという事態を表し、その様態「優しく: gently」という補足情報を伴っている。
153. 息子は風呂場で歌っています。
→ My son is singing in the bathroom.
副詞句が文の必須要素であるかどうかは、「それを取り除いたときに意味のあることを伝えられるか?」という基準で判断できる。153で「場所」の情報を表す in the bathroomを取り除いても、My son is singing.「息子が歌っている。」という意味のある事態を伝えることができる。
154. 太陽が輝いている。
→ The sun is shining.
厳密に言えば、太陽: The sunは輝く: shineという「行為」を行なっているというわけではないが、太陽は自らもつ性質として輝くことができ、その際に直接影響を及ぼす対象は存在しない。よって「身ひとつ動作」の拡張として、"[行為者] + 動作"の構造で表現される。
155. 一晩中雪が降った。
→ It snowed all night.
天気現象を表す snow, rain, hail(あられ/ひょうが降る), thunder(雷が鳴る), freeze(氷が張る), thaw(雪/氷が溶ける)といった動詞は、「天気の it」を主語にして "[行為者] + 動作"の構造で事態を表現する。
2. 「身ひとつ動作」の拡張: 自らが持つ性質によって自己完結的に「〜する」
「身ひとつ動作」の拡張として、Sで示されるものが意思を持って行為をする「行為者」ではないものの、自らが持つ性質によって自己完結的に「〜する」という事態を表す例を研究しよう。
156. それは場合によりけりだ。
→ It depends (on circumstances).
depend: de- ('down')+ -pend ('hang': pendingの pend-と同語源)。主語の Itが示す事項が、決定を下されるにあたって「場合・状況にぶら下がる形になる」イメージ。
主語の Itが示す事項の性質が重要ではない: doesn't matterということを表す。動詞の matterは通常 itを主語にして、主に否定文・疑問文で用いられる。
158. 彼の意見は聞くに及ばない。
→ His opinions do not count.
彼の意見: his opinions(一般論として言うので複数)が「ものの数に入らない: do not count」という性質を持つものとして捉えられている。
159. A: 週末ずっと雨だったんだ。ー B: ああ、やっぱり。
→ A: It rained the whole weekend. ー B: Oh, that figures.
figure:「形」が単語のコアイメージ。「フィギュア」は人や動物などの形をした模型であるし、figure skating(フィギュアスケート)も本来は氷上を滑りながら描く図形の美しさを競う競技。動詞の figureは「形づくる=計算して数字で表す・図解する・心に描く」といった意味を表す。159の "That figures."とは、that (= 話者Aの言った "It rained the whole weekend.")が、話者Bの脳内でリアルに「形づくられる」ことを表している。
160. 天気は持つでしょうか?
→ Would the weather hold?
The weatherの性質・動向として、現状のまま持ちこたえる: holdかどうかを問うている文。目の前の現実から離れ、脳内でのイメージ・想定を表すため、仮定法の wouldを用いる(詳しくは仮定法を扱う際に説明する)。
3. 使役移動概念: [X: 行為者/原因] CAUSES [Y: 対象/移動主体] TO MOVE (TO/FROM Z: 場所)
使役移動概念は対象を動かす行為を表すもの。概略、"[X: 行為者/原因] CAUSES [Y: 対象/移動主体] TO MOVE (TO/FROM Z: 場所)"のように図式化できる。
161. 彼はカップをテーブルに置いた。
→ He put the cup on the table.
put: 使役移動概念を表す典型的な述語動詞。
X = He, Y = the cup, TO Z = on the table(着点を表す2次元空間)
162. A: コーヒーにミルクを入れますか? ー B: はい、お願いします。
→ A: Do you put milk in your coffee? ー B: Yes, please.
X = you, Y = milk, TO Z = in your coffee(着点を表す3次元空間)
163. 彼を連れてきなさい。(話し手は部屋の中にいる)
→ Bring him in.
bringと takeの関係は comeと goの関係に相当する。
bring:「話し手のいるところへ」持って来る・連れて来る動作を表す。
164. その本を棚に返しておきなさい。
→ Take the book back to the shelf.
take:「話し手から離れたところへ」持って行く・連れて行く動作を表す。 back to the shelfは、まず漠然と backと言っておいた上で to the shelfと細かく指定する表し方。
165. お茶を持ってきてあげる。
→ I'll bring some tea for you.
Comeが「(相手の方へ)行く」という意味を持ちうるように、 bringも「(相手の方に)持って行く・連れて行く」の意味になる場合がある。
4. 使役移動概念 (2) → 移動のさせ方に注目すると
移動概念を表す際、英語では「移動の様態」が動詞に併合され、多様な述語動詞が用いられるということを見た。使役移動概念でも同様に、移動のさせ方に注目して様々な動詞のバリエーションが観察できる。
166. Johnは花瓶に水を注いだ。
→ John poured water into the vase.
pour: 液体を分断することなく1つの流れとして注ぐ。
167. 息子がテーブルから食器を片付けた。
→ My son cleared dishes {from / off} the table.
clear: "[X: 行為者/原因] CAUSES [Y: 対象/移動主体] TO MOVE (FROM Z: 場所)"の構造で、「Yが表す『じゃまな物』を Zの『場所から』取り除く」という意味を表す。よって場所部分は起点 (FROM Z)になる。
168. 彼女はベッドの上に服を放り投げた。
→ She threw her clothes onto the bed.
throw: 「投げる」ことによって Y: her clothesを Z: onto the bedに移動させる。Clothesは衣服一式を総称的に表し複数扱い。
169. 彼らはコーチを胴上げした。
→ They tossed their coach in the air.
toss: throwよりも「放り投げる」という感覚が強い。
170. 彼女は化粧を落とした。
→ She wiped off her make-up.
「場所の移動」が「状態変化」と並行的に捉えられることから、「使役移動」もメタファー的拡張を経て「状態変化を引き起こす」という意味合いを表すことができる。170では offが結果状態(≒着点)を表しており、 her make-upがその状態に「移動/変化」する対象。
5. 使役移動概念 (3) → 前置詞 on / withによって動くものが異なる例・主語に[原因]が来る例
使役移動概念の研究を続けていこう。今回は、前置詞 on / withによって動くものが異なるケースと、主語に [行為者]ではなく [原因]が来る例文を中心に学習する。
171. その泥棒たちは金庫から金を盗んだ。
→ The theives stole the money from the safe.
steal: take(話し手から離れたところに持っていく)に通じるが、"without permission"という意味が加わる。
172. Hagridは流れ落ちる涙 (his streaming eyes)を上着 (jacket)の袖で拭った。
→ Hagrid wiped his streaming eyes on his jacket sleeve.
wipe ~ on his jacket sleeve: 片腕を固定し、顔の方を袖に擦り付けて涙を拭ったという情景が表されている。 his streaming eyes「流れる両目」とは、実際には両目から溢れる涙 (tears)を意味しており、隣接に基づくメトニミー表現。
173. Fredはタオルで(タオルを手にとって)手を拭いた。
→ Fred wiped his hands with a towel.
wipe ~ with a towel: 前置詞 withを使った表現では、後に続く名詞が指すもの (a towel)を道具として用いて wipeという行為を行なったという意味になる。よってタオルの方を動かして手を拭う動作となる。
174. その嵐によって交番の屋根が吹き飛んだ。
→ The storm blew the roof off the police station.
The stormは意図的に移動を引き起こす[行為者]ではないが、屋根が交番から離れて吹き飛んでいく(やーねー)という移動現象の [原因]として Sに立てられている。
175. どうしてここに来たのですか?
→ What brings you here?
あなたをここに連れて来た [原因]となる Sの情報が未知であり、疑問詞 whatによって尋ねられている。175の言い方は、意外さと歓迎が入り混じった気持ちを表す。
6. 使役移動概念 (4) → 壁塗り構文など
今回は、物を移動させることによって場所に影響を及ぼすという風に状況を捉えた場合の表し方を学習しよう。
176. 彼はグラスを水で満たした。
→ He filled the glass with water.
fill:「場所/容器を物で fullの状態にする」という意味を表し、場所の状態変化に焦点を当てる。よって場所/容器の方が行為の影響を受ける対象とみなされ、文構造としては直接目的語で表される。
177. Johnが(皿をどけて)テーブルを片付けた。
→ John cleared the table of dishes.
clear: 片付けられる場所の状態変化に注目し、177のように "clear + 場所 + of
物"という構造も取れる。日本語の「片付ける」の場合、除去された移動物を示すための助詞が存在しないため、"of 物"を直訳して表すことができない。(「Johnがテーブルを食器で片付けた。」)
178. その裁判官は被告 (defendant)の容疑を全て晴らした。
→ The judge cleared the defendant of all charges.
実際の物の移動を伴わなくとも、「容疑」を除去することによって被告の状態変化が引き起こされる状況を、類似に基づくメタファーで表している。なお、178のように「移動物」が抽象名詞の場合、物理的な移動は伴わないため、物の動きに注目した使役移動構文は不適格となる:*The judge cleared all
charges from the defendant.
179. 彼らは銀行を襲って金を奪った。
→ They robbed the bank of the money.
rob: 「衣をはぐ」が原義で、「人(など)を襲って物を奪う」の意を表す。よって襲われた対象が関心の中心となり、直接目的語で表される。
180. 彼はペンキで壁を塗った (smear)。
→ He smeared the wall with paint.
smear: 移動の意味「XがYをZに動かす」と場所の状態変化「YがZに動くことにより、XがZの状態変化を引き起こす」の両方の意味を持つ。したがって、移動物と場所のどちらに焦点を当てるかによって2通りの表し方が存在する。179は壁の状態変化に注目した文であるため、「壁一面がペンキで塗られた」という全体的解釈が強く現れる。
★無料★ メルマガ英作文講座として配信中!
ご登録はこちらのフォームから
- メルマガ講座には復習時に例文の発音解説つき!
- ガリレオ研究室メールマガジン The English Observatoryにも登録されます。ご不要な場合はメルマガ末尾よりいつでも配信解除することが可能です。
- ご入力いただきましたメールアドレスは、プライバシーポリシーに従い適切に管理いたします。
- 当サイトは、個人情報保護法等の法令に定めのある場合を除き、あらかじめご本人の同意を得ることなく、個人情報を第三者に提供いたしません。